精子調整
精子調整とは
射出精液中には運動精子以外に不動精子や白血球等の細胞が含まれています。これらの細胞を取り除き運動良好精子を回収することを言います。精液中に含まれる運動精子以外の細胞には、不動精子、白血球、赤血球、扁平上皮細胞、B型肝炎、HIV等のウイルス等が含まれています。白血球等は精子の質を低下させる原因となります。そのため、採取後は速やかに精液中から運動精子以外の細胞を取り除く必要があります。
精子調整の方法
当院では使用目的と精子の状態に合わせて精子調整を行っております。
- 一般不妊治療(人工授精):密度勾配法または洗浄濃縮法
- 高度生殖補助医療(IVFまたはICSI):スイムアップ(Swim up)法または洗浄濃縮法
精子調整のメリットとデメリット
メリット
- 運動良好精子を回収できる(密度勾配法、スイムアップ法)
- 白血球等の細胞を取り除くことができる(密度勾配法、スイムアップ法)
デメリット
- 精子の状態によっては想定よりも少ない数の運動精子しか回収できないことがある
- 男性が感染症を有している場合、ウイルスの種類によっては精子調整を行っても取り除くことができず、治療によって女性に伝播する可能性が報告されている
密度勾配法
密度勾配法について
密度勾配法とはシラン被膜コロイドシリカゲルを用いて処理することで比重が高い成熟精子を回収する方法です(成熟精子の比重が未熟精子やウイルス等よりも高いとされています)。手順については以下の画像をご参照ください。

密度勾配法のメリットとデメリット
メリット
- 精液中に含まれる不動精子やウイルスを取り除くことができる
- 成熟した運動精子を多く回収できる
デメリット
- 運動精子数が十分ないと実施できない(回収精子が減ってしまうため)
- 調整後に不動精子が多く含まれることがある(精子の比重のみで分類するため、不動精子でも比重が高いものがあると回収されてしまうため)。
スイムアップ法
スイムアップ法について
スイムアップ(Swim up)法とは密度勾配法または洗浄濃縮法で回収した運動精子の中から運動性の高い精子を回収する方法です。手順については以下の画像をご参照ください。
スイムアップ法のメリットとデメリット
メリット
- 運動良好精子を回収できる。
デメリット
- 十分な運動精子が回収できないことがある(※調整前の原精液の状態が良くても標準体外受精(IVF)が実施できない場合もある)。
洗浄濃縮法
洗浄濃縮法について
洗浄濃縮法とは精液中の細胞をすべて回収する方法です。手順については以下の画像をご参照ください。
洗浄濃縮法のメリットとデメリット
メリット
- 精子をほぼすべて回収できる。
デメリット
- 不動精子や白血球等の細胞を取り除くことができない。
受精方法
受精方法について
受精方法には標準体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の2つがあります。当院では採卵によって複数の卵子が獲得できた場合に、標準体外受精と顕微授精を数個ずつ行うスプリット法(IVF+ICSI)も実施しております。
受精方法の選択について
受精方法の選択については、不妊原因や採卵日の精子の状態、過去の治療歴等を考慮して決定いたしますが、原則、日本産科婦人科学会の会告に基づいて行っております。
標準体外受精(IVF)
標準体外受精とは
採卵後の卵子と一定濃度の運動精子を一緒に培養して受精させる方法です。体内で起こる受精に近い状態で受精できるため、より自然に近い受精方法になります。
標準体外受精の適応
- 卵管性不妊の場合
- 軽度の男性不妊症の場合
- 免疫性不妊の場合(精子不動化抗体強陽性)
- 原因不明不妊の場合
標準体外受精の成績
- 一般に標準体外受精(IVF)での正常受精率は約70%と報告されています。
- 胚移植後の妊娠率は移植周期当たり23%と報告されています(2018年 日本産科婦人科学会の報告)。
標準体外受精のメリットとデメリット
メリット
- より自然に近い状態で受精させることができる。
- 顕微授精に比べ卵子への負担が少ない。
デメリット
- 受精卵が1つも得られない可能性がある(受精障害)
- 複数の精子が同時に卵子に侵入してしまう可能性がある(多精子受精)
- 受精卵が1つも得られないことや受精率が極めて低い場合がある
標準体外受精による児への影響
標準体外受精(IVF)により出生した児の先天異常率は自然妊娠で出生した児と差はないと報告されています。しかしながら、長期的な経過観察が必要とされています。
標準体外受精の方法
採卵後の卵子と一定濃度の運動精子を一緒に培養して受精させます。
顕微授精(ICSI)
顕微授精とは
顕微授精とは、卵細胞質内精子注入(Intracytoplasmic sperminjection:ICSI)と呼ばれ、顕微鏡下で受精準備の整った卵子(成熟卵子)に1つの精子を極めて細いガラス針を用いて直接卵子の中に注入する方法です。主に精子数が少ない、運動している精子が少ない等の男性不妊の治療方法として開発されました。顕微授精の実施に際しては、日本産婦人科学会より「男性不妊や受精障害など、本邦以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される夫婦を対象とする」とあります。
顕微授精の適応
- 重度の乏精子症、精子無力症、精子奇形症およびその合併症の場合
- 無精子症の場合
- 体外受精(IVF)で受精障害であった場合
- 抗精子抗体強陽性の場合
顕微授精の成績
- 一般的に顕微授精での正常受精率は約80%と報告されています。
- 胚移植後の妊娠率は移植周期当たり19%と報告されています(2018年 日本産科婦人科学会の報告)。
顕微授精のメリットとデメリット
メリット
- 精子を直接卵子に注入することができる。
- 精液所見が厳しい症例でも精子が1つあれば受精操作を完了できる。
- 受精率が標準体外受精に比べると高い傾向がある。
デメリット
- 成熟卵にしか実施できないため、顕微授精を実施できない場合がある
- 受精卵が1つも得られないことや受精率が極めて低い場合がある
- 針を刺すという物理的な刺激により卵子が変性してしまう場合がある
顕微授精による児への影響
男児が誕生した場合の男性不妊因子の伝播
無精子症および重度乏精子症の場合、男性が持つY染色体上の造精機能に関する遺伝子に異常がある場合があります。この遺伝子に異常をもつ精子を用いた顕微授精によって出生児が男児であった場合、その異常が継承され父親と同様に男性不妊症になることがあります。
出生児の先天異常の発生頻度
顕微授精により出生した児の先天異常率は1.7~4.0%と報告されており、体外受精(IVF)により出生した児の先天異常率と差はないと報告されています。しかしながら、長期的な経過観察が必要とされています。
顕微授精の方法
極めて細いガラス針に1つの精子を吸引し、卵子の中に直接注入します。
スプリット法
スプリット法(split)とは
採卵によって複数の卵子が獲得できた場合に、獲得できた卵子を標準体外受精と顕微授精に数個ずつ分けて媒精を行う方法です例えば、採卵によって卵子が10個獲得できた場合に、標準体外受精を6個、顕微授精を4個行います。
スプリット法の適応
- 採卵によって複数の卵子が獲得できた場合
- 採卵当日の精子に異常がない場合、または軽度の男性不妊症の場合
- 過去に標準体外受精を行い、正常受精卵が得られなかった、または正常受精率が極めて低かった場合
スプリット法のメリットとデメリット
メリット
- 標準体外受精での受精障害や多精子受精の可能性を軽減できる。
- 顕微授精による物理的刺激による卵子の変性を回避できる。
デメリット
- 標準体外受精を実施した卵子では、受精障害や多精子受精の可能性がある。
- 顕微授精を実施した卵子では、物理的な刺激による卵子変性の可能性ある。
- 卵子が成熟していないために顕微授精を実施できない可能性がある。
- どちらの方法でも正常受精卵が得られない可能性がある。
split法による児への影響
標準体外受精で受精した胚を移植した場合は、出生した児の先天異常率は自然妊娠で出生した児と差はないと報告されています。いずれの場合においても長期的な経過観察が必要とされています。
顕微授精で受精した胚を移植した場合
- 男児が誕生した場合の男性不妊因子の伝播の可能性がある点。
- 無精子症および重度乏精子症の場合、男性が持つY染色体上の造精機能に関する遺伝子に異常がある場合があります。この遺伝子に異常をもつ精子を用いた顕微授精によって出生児が男児であった場合、その異常が継承され父親と同様に男性不妊症になることがあります。
出生児の先天異常の発生頻度について
- 顕微授精により出生した児の先天異常率は1.7~4.0%と報告されており、体外受精(IVF)により出生した児の先天異常率と差はないと報告されています。
スプリット法の方法
採卵によって獲得できた卵子を数個ずつに分けて、標準体外受精と顕微授精を行います。





























